相続に関する法制度が大きく変わる。第3回は、配偶者が自宅に住み続けやすくなるよう、新たに設けられた「配偶者居住権」を取り上げる。

改正では全く新しい考え方に基づいた「配偶者居住権」という制度も新設された。高齢社会に対応して、夫(または妻)亡き後の配偶者が、遺産分割後も自宅に住み続けながら一定の生活費を確保できるよう配慮した新制度だ。

具体的にはどんな権利で、どう役立てるべきなのか。次の事例を見ていくとイメージしやすくなる。配偶者居住権は、その名の通り配偶者が自宅に住める権利。現在ある「賃借権」に似たもので、賃借権と同様に財産としての価値を持つ(評価方法は未定)。改正法の施行後は自宅建物を所有する権利が所有権、配偶者が住む権利は配偶者居住権になるわけだが、自宅の評価額が3000万円で、仮に配偶者居住権が300万円と評価されたとすると、所有権は残りの2700万円という関係になる。

夫が死亡した際、妻は自宅に住み続けることを希望するケースは多いが、これまでは自宅を丸々相続してしまうと、図「現行では」の例のように今後の生活費に充てる預貯金を全く相続できない問題が生じることも多々あった。そればかりか、自宅以外の相続財産が少ない場合は、他の相続人の分け前と公平にするため、泣く泣く自宅を売ってその資金を他の相続人に渡すという方法を取るケースもある。

改正後は、こうした場合でも配偶者居住権を役立てれば、図の「改正後」のような分割が可能になる。自宅については所有権を長男が、配偶者居住権は妻が引き継ぐ形とすれば、妻が自宅を所有せずに住む権利だけを取得できる。その上、自宅に関しては住む権利300万円分だけに限定して相続しているので、残りの相続分に相当する預金2700万円も相続できる。これを今後の生活費に充てることができるわけだ。

■夫の死後、自宅に住み続けにくくなる心配をなくす

配偶者居住権の趣旨が生きてくる事例としては、夫を亡くした妻と、その子供の仲が悪いケースなどが想定される。

妻が高齢だった場合、夫を亡くした後に住み慣れた自宅を手放して引っ越しするなどの選択は精神的にもかなりハードルは高いものと言えそうだ。かといって、住み続けるために自宅を相続してしまうと、場合によっては、前述のように、その後の生活費を確保できない事態にもなり得る。

こうした時に「自宅は住む権利だけ確保しつつ、生活費も得られる遺産分割をする」という方策が取れるのが配偶者居住権となる。

親子の仲が円満であれば、例えば長男が妻の自宅の所有権を丸々引き継いだとしても「すぐに家から出て行ってほしい」という流れにはなりにくい。だが、もともと仲が悪く、長男が自宅を丸々所有した状態では妻が気まずくて住み続けにくくなる可能性がある場合には、配偶者居住権を取得していると、妻は一定の安心感を得られることになる。

ただし配偶者居住権を使う場合には、条件によっては後に税優遇が手厚い「小規模宅地等の特例」が使えなくなる可能性が生じる、あるいは権利を持つ妻が認知症になった場合にどうするかなど不安要素が伴うことを考慮する必要がある。タクトコンサルティングの本郷尚さんは「本来の制度の趣旨に合った役立て方をするよう心掛け、慎重に判断してほしい」と助言する。実際の利用時は専門家に相談するのがいいだろう。
(ライター 福島由恵)日経マネー2018年12月号の記事を再構成