マンション建物の修繕や設備の更新に充てる「修繕積立金が足りず」窮地に立たされる管理組合が増えている。

そのままでは給排水管、エレベーターなど主要な設備が更新の時期に差し掛かる「築35年の壁」を超えられず、住宅インフラとしての資産価値が下がりかねない。

安心して永住できるマンションにするために、どんな手立てがあるのだろうか。

 

「バルコニーの天井が剥がれたり、外壁がひび割れて錆が浮いたりしても、ほったらかし。さすがに管理体制がどうなっているのか不安になった」神奈川県の主婦Aさん(54)は、ずさんな管理に業を煮やして自らマンション管理組合の理事長に立候補した4年前の心境を語る。

 

このマンションの管理は新築当時の1984年からずっと売り主の系列の管理会社に委託されてきた。

130戸の住民から選ばれる管理組合の理事も同社が輪番制で指名しており、立候補者が現れることは異例だった。

 

Aさんが理事長についた管理組合はマンション専門のコンサルティング会社、シーアイピー(東京・中央)と契約を結び、まずは共用部分の清掃や設備の点検など日々の管理業務にメスを入れた。

 

~管理を競争入札~

必要とされる管理業務を一つ一つ拾い上げて詳細な「仕様書」を作成。

これを公開して競争入札にかけて管理会社を変更したところ、年間で約1700万円かかっていた管理コストを約1000万円まで削減できた。

 

国土交通省の調査では、分譲マンションの76%は新築当時から管理会社を変更していない。

シーピーアイの須藤桂一社長は「ビジネスの競争原理が働いていないため、管理コストの削減の余地は大きい」という。

管理組合のチェックがなされず相場に比べて割高になっている管理委託費の支出を削ればその分を修繕積立金に回せる。

 

大規模修繕の工事費そのものも、施工業者を競わせればコストが下がる。

 

Aさんのマンションは2014年に外壁の塗装、屋根やバルコニー床の防水施工、エントランス舗装などの大規模修繕をした。

当初2億円近くとみていた工事費は、同社がお膳立てした競争入札により約16000万円に圧縮できた。

Aさんは「住宅金融支援機構から借り入れるつもりだった2000万円が不要になった」と胸をなでおろす。

 

修繕積立金の不足に苦しむ管理組合は急増している。

管理組合が住宅金融支援機構から融資を受けた件数は、15年度に366と前の年度に比べて32%も増えた。

外壁の塗り替えや屋上の防水施工など、十数年に一回必要になる修繕工事のコストは一戸当たり少なくとも120万円前後かかるという。

 

さらに築30年を超える頃には、給排水管や電気系統の設備を更新する必要が生じる。

このため3回目の修繕高2の際にコストは一気に跳ね上がり、管理組合は資金不足に陥りやすい。

これが多くのマンションが直面する「築35年の壁」だ。

 

国交省によると、マンション管理組合のうち4割強は、修繕積立金となる収入が一戸あたり、月1万円以下にとどまる。

管理コストや工事費の削減などにより積立金の会計を早めに立て直しておかなければ、壁は乗り越えられない。

 

~工事先延ばしも~

手を尽くしても積立金が足りない場合、実は工事そのものを先延ばしにする選択肢がある。

多くの管理組合は国交省ガイドラインにならって12年周期で大規模修繕を計画するが、さくら事務所(東京・渋谷)の土屋輝之コンサルタントは「商業ビルや賃貸マンションの場合、工事の周期はもっと長い。12年周期は短すぎるのではないか」とみる。

 

仮に工事周期を12年から15年に延ばせば、工事費を2割カットするのと同じ効果が出せる。

外壁タイルが剥がれ落ちたり、雨漏りしたりする可能性がないかなど専門家の判断を仰ぎつつ慎重に検討する必要があるが、「1518年に延ばしてもほとんど問題ないことが多い」(須藤氏)との声が少なくない。

 

それでも積立金不足を解消できなければ、住民から一時金を徴収したり、金融機関から工事費を借入したうえで、月々の修繕積立金を値上げしたりしなければならない。

これは管理組合の総会で出席者の半数で決議する。

住民がなんとか合意できる負担できる上限は「一時金なら一戸100万円、積立金の値上げなら2倍くらいまで」(長谷工リフォーム)とされる。

 

一部で反対意見があっても総会で決議することができるが、合意形成の過程で反対住民をないがしろにすると将来に禍根を残すことになるかもしれない。

いわゆる「民泊ビジネス」をめぐる管理規約の改正や、共用部分の構造を変更する大がかりな耐震補強工事などは、総組合員の4分の3以上の賛成により特別決議しなければならない。

 

マンション総合コンサルティング(東京・中央)の広田信子代表取締役は、「反対住民が『目面目をつぶされた』と感じないよう、事前の説明会で意見を述べてもらったり、その意見を各戸に配る報告資料に乗せたりするといい」と助言する。

 

国交省によると、今住んでいるマンションに永住したいと考える住民は52%に達する。

建物の大規模修繕をめぐる築35年の壁は、そのマンションが、終の棲家にふさわしいコミュニティーを構築できるのかどうかの試金石でもある。

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日本経済新聞(表悟志氏):平成28年727日(水)